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大津地方裁判所 昭和35年(行)2号 判決

原告 和田菊治郎

被告 近江八幡税務署長

訴訟代理人 叶和夫 外四名

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は第一次的請求として「原告の昭和三三年度分総所得金額につき、被告が昭和三四年一二月一五日なした更正処分決定(昭和三五年五月三〇日大阪国税局長がなした審査決定により一部取消)の無効を確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」第二次的請求として「原告の昭和三三年度分総所得金額につき、被告が昭和三四年一二月一五日なした更正処分決定の総所得金額三五六、六五七円(昭和三五年五月三〇日大阪国税局長がなした審査決定により金三三二、七三八円をこえる部分を取消)の内金二七七、四七九円を超過する部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

「一、原告は肩書住所で田八反三畝余、畑八畝一合余を耕作し農業を経営すると共に農林技官として滋賀県食糧事務所竜王出張所に勤務しているものであるが、その昭和三三年度における総所得金額は金二七七、四七九円であるので、昭和三四年三月一五日被告に対しその旨の確定申告書を提出した。ところが被告は同年一二月一五日原告の右総所得金額を金三五六、六五七円とする旨更正決定をしたので、原告は昭和三五年一月一五日被告の更正決定につき大阪国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は昭和三五年五月三〇日被告のなした更正決定の一部を取消し、原告の昭和三三年度における総所得金額を金三三二、七三八円とする旨決定し、その通知は同年六月二日原告方に到達した。

二、しかしながら原告の前記確定申告は正確に記帳した帳簿に基いてなされているのに対し、被告の決定は、所得税法第九条及び同施行規則第九条が農業所得についていわゆる権利確定主義を採用しているのにかかわらず、いわゆる現実収入主義によりなされているので無効である。仮にそうでないとしても被告のした前記更正決定は原告の所得の充分な調査を行うことなく、単なる見込をもつてなされたものであつて過大失当である。よつて原告は本訴請求に及んだ次第である。」

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、原告の請求原因に対して次のとおり述べた。

「原告主張の請求原因事実中第一の事実(但し原告の昭和三三年度における総所得金額が原告主張の金額であることは否認する。)及び第二の事実中所得税法第九条及び同施行規則第九条が農業所得につきいわゆる権利確定主義を原告として採用していることは認めるが、その他の点は否認する。所得税法はいわゆる権利確定主義を原則として採用しているが必ずしも常に右主義によらなければならないものではなく、例えば、小規模かつ単純な取引のごとき場合は現実収入主義による取扱いが認められている。従つて更正決定が権利確定主義によるべき場合に、仮に現実収入主義によつて収入の帰属年度を決定したとしても、客観的な課税標準に変更を来さないかぎり、右更正決定が無効であるとはいえない。被告のした、原告の昭和三三年度における総所得金額の更正決定は、大阪国税局長の審査決定により金三三二、七三八円をこえる部分を取消されており、右金額三三二、七三八円は以下述べるとおり正当である。

一、原告の昭和三三年一月一日より同年一二月末日までの間における総収入金は金六八一、四五五円(その内訳は農業収入金四〇三、七〇一円、配当所得金二七五円、給与所得金二七七、四七九円)であり、必要経費は金一五九、六七八円、予約減税金一六、三二〇円専従者控除金一六〇、〇〇〇円であるから、原告の昭和三三年度における総所得金額は金三四五、四五七円となる。

二、右のうち、農業収入金四〇三、七〇一円の計算の根拠は次のとおりである。

(一)  米の収人金二六九、五九三円その内訳は

(イ)  政府売渡高金一三九、七七〇円

(ロ)  政府売渡申込加算金一、四〇〇円

(ハ)  自由売却格差金四五八円、原告は米二六升を売却し、金三、〇〇〇円の収入を得ているが、この収穫価格は金二、五四二円{算式二六×九七・八(一升の収穫価格)}であり、その差額四五八円は収入金である。

(ニ)  自家保有粳米金一一〇、九五五円

(ホ)  自家保有糯米金一一、三一〇円。糯米は玄米一俵(六〇瓩)につき粳米の価格(金三、九〇〇円)に金四五〇円を加算しなければならないから、原告が収穫した糯米二・六俵(水稲八〇升、陸稲二四升、合計一〇四升)の価格は金一一、三一〇円{算式(三、九〇〇+四五〇)×二・六}である。なお昭和三三年度米穀政府買入価格は別紙目録記載のとおである。

(ヘ)  屑米金五、七〇〇円。屑米の収穫高は一一四升であり、その価格は一升につき金五〇円であるからその価格の合計は五、七〇〇円である。

仮に右米の収入金二六九、五九三円が認められないとしても、原告の昭和三三年度における米の消費高は、政府売渡高金一四三、六七二円、事業用消費高九、四六三円、自家円消費高金九〇、三一七円の合計額金二四三、四五二円であり、これに同年度期末在高金一二二、二四〇円を加算し、同期首在高金九六、二九九円を減算すると、米の収穫高は金二六九、三九三円となり、これに政府売渡加算金一、四〇〇円および自由販売格差金四五八円を加算すると、米の収入金は金二七一、二五一円である。

(二)  麦の収入金二五、二一五円

(三)  なたねの収入金三三、一四七円。原告は昭和三三年三月なたねを代金六、〇〇〇円で販売しているが昭和三二年六月(収穫時)の価格(三等程度六〇瓩)は金二、九二五円であり右販売時その価格は金三、一八〇円に騰貴しているのでその収穫価格金五、六一三円{算式(6000-)6000×2925/3180}と販売価格六、〇〇〇円との差額三八七円は昭和三三年度の収入金に追加計上すべきである。

(四)  牛追金収入金四七、二二五円。原告は昭和三二年一二月取得した牛(A)(取得価格九〇、〇〇〇円)を昭和三三年五月三〇日追金二六、〇〇円を得て牛(B)と交換しており、この交換時の牛(A)の価格は償却額三、七三五円を差引いた金八六、二六五円である。原告はさらに牛(B)を同年九月三〇日追金一五、〇〇〇円を得て牛(C)と交換しており(取得価格九〇、〇〇〇円)、この時の牛(B)の価格は償却額二、四九〇円を差引いた金八七、五一〇円である。したがつて牛追金算定の基礎となるべき牛(A)、(B)の原価はそれぞれ右の各償却額を差引いた金八六、二六五円、金八七、五一〇円とすべきであつて、右の償却費相当額合計金六、二二五円は別途経費に計上されている減価償却費と重複するから原告が取得した追金四一、〇〇〇円に牛追金の補正として追加計上しなければならない。

(五)  共済保険収入金三、八九五円。原告は昭和三三年二月一四日金二、五五七円、同年六月二日金七〇〇円、同年一二月一三日金六三八円の共済保険収入を得ている。

(六)  その他収入金二四、六二六円

三、次に必要経費金一五九、六七八円の計算の根拠は次のとおりである。原告は被告に対して農業上の必要経費として肥料費金三七、二九五円、飼料費金五七、六五四円、種苗費金五、六〇〇円、作業場費金一、一五五円、その他経費金九四、一六六円合計金一九五、八七〇円と申出ているが、右のうち次の金額は必要経費として認められないものであるから否認する。

(一)  肥料費のうち昭和三三年四月一〇日金三、一七五円、同年一二月二五日金三、九〇〇円、同年一二月二七日金二、七三〇円各支出したとする以上合計金九、八〇五円は事実ではないからこれを控除した金二七、四九〇円が肥料費に要したものというべきである。

(二)  飼料費のうち昭和三三年一月三一日の大麦五俵の代金七、五〇〇円のうち二俵三、〇〇〇円は前年度に消費されているから、三三年度の経費ではない。同年三月一三日金七〇〇円、同年五月二二日金七二〇円、同年六月一六日金七二〇円、同年八月二日金七二〇円、同年一二月二〇日金六〇〇円をそれぞれ米糠代金として支出したとする以上合計金三、四六〇円は事実ではない。昭和三四年二月二七日支出した大麦金一五、一二〇円の代金は昭和三四年度の経費であるから同三三年度の経費として計上すべきではない。

(三)  種苗費金五、六〇〇円のうち金一、九四八円を超える部分は著しく過大である。

(四)  作業場費金一、一五五円は始め必要経費として認めたがこれを撤回して除外する。

以上(一)乃至(四)の除外額合計は金三六、一九二円であるから、原告が申出た必要経費額より右金額を差引いた残額金一五九、六七八円が必要経費として認め得るものである。

四、以上のような訳で、原告の昭和三三年度における総所得金額は前記第一項記載のとおり金三四五、四五七円であること明らかで右金額の範囲内である金三三二、七三八円を原告の昭和三三年度の総所得としたことは正当である。

よつて本訴請求はいずれも失当であつて応じ難い。」

原告訴訟代理人は被告の主張に対して次のとおり述べた。

一、被告主張事実第一項のうち、配当所得金、給与所得金、予約減税専従者控除金が被告主張のとおりであることは認める。農業収入金及び必要経費の点は否認する。又配当所得は従来から所得として計上していなかつた。

二、同第二項(一)の事実中、(イ)、(ロ)の事実は認める。(ハ)のうち米の一升の価格が九七・八円であること、米を売却して得た金額が三、〇〇〇円であることは認める。原告が売つた米が二六升であつたことは始め認めたがこれは真実に反し錯誤に基くものであるから撤回し、否認する。原告が売つた米は二九升である。よつて自由売却格差金は一六四円{算式三、〇〇〇-(二九×九七・八)}である。(ニ)の事実は始め認めたが、それは真実に反する陳述で錯誤に基いてしたものであるから、その自白を撤回して否認する。すなわち自家保有粳米は一〇七、五〇四円である。(ホ)のうち原告が収穫した糯米が二六俵であつたこと及び昭和三三年度産米穀政府買入価格は別紙目録のとおりであることは認めるがその余の事実は否認する。原告の自家用糯米は金九、四三八円(水稲七、八〇〇円、陸稲一、六三八円)である。(ヘ)のうち屑米の収穫高は一一四升であり、その価格が一升につき五〇円であることは認めるがその価格の合計は金五、五〇〇円である。米の収入金に関する予備的主張は否認する。

同第二項(二)の事実中金二一、六四五円は認めるが金三、五七〇円は否認する。

同第二項(三)の事実中金三二、七六〇円は認めるが金三八七円は否認する。昭和三三年三月なたね代金六、〇〇〇円を受取つたことはあるが右なたねは昭和三二年五月に苗農業協同組合に販売した代金の一部を右日時同組合から支払を受けたものである。

同第二項(四)の事実中、原告が二度にわたり被告主張の追金を得て牛を交換したこと、各牛の償却費相当額合計金六、二二五円が別途経費に計上されている減価償却費中に含まれていることはそれぞれみとめる。しかし原告は、被告の指示に従つて牛追金を金四一、〇〇〇円として申告したのであり、被告の金六、二二五円の追加計上は正当ではない。

同第二項(五)の事実中、被告主張の各金員を被告主張の年月日に受けとつたことは認める。しかしながら昭和三三年二月一四日金二、五五七円、同年六月二日金七〇〇円各受けとつた分は昭和三二年度の共済金収入であり、昭和三三年度の共済保険収入は昭和三三年一二月一三日金六三八円、昭和三四年五月二〇日金七九二円合計金一、四三〇円である。

同第二項(六)の事実は認める。

三、同第三項の事実中、原告が被告主張のとおり必要経費を申出たことは認める。その他は否認する。原告は更に必要経費として金三、五七〇円を追加する。これは昭和三二年度に収穫した麦を昭和三三年度に事業用として消費したものである。

被告指定代理人は原告の必要経費の追加計上は事実に反するから必要経費としては認められないと述べた。

証拠〈省略〉

理由

一、次の事実については当事者間に争いがない。

原告は肩書住所において田八反三畝余、畑八畝一合余を耕作し農業を経営するとともに、農林技官として滋賀県食糧事務所竜王出張所に勤務する者であるが、昭和三四年三月一五日被告に対し原告の昭和三三年度における総所得金額は金二七七、四七九円である旨確定申告をした。ところで被告は同年一二月一五日原告の右総所得金額を金三五六、六五七円と更正決定をした。原告は昭和三五年一月一五日大阪国税局長に対して被告の更正決定につき審査の請求をしたところ、同局長は同年五月三〇日被告のなした更正決定の一部を取消し、原告の昭和三三年度における総所得金額を金三三二、七三八円とする旨決定し、その通知は同年六月二日原告方に到達した。

二、所得税法第九条同施行規則第九条が、農業所得を把握するのに、原則として、金銭、物、権利を現実に取得できたときでなく、金銭物、権利を取得できる地位すなわち権利を取得したときをもつて損益発生のときとしている(いわゆる権利確定主義)ことは当事者間に争いがない。原告は被告の更正決定が右権利確定主義によらずいわゆる現実収入主義(所得を把握するのに、金銭、物、権利を現実に取得できたときをもつて損益発生のときとする。)によつているから違法であり右決定は無効であると主張するのでこの点について案ずるに、所得税法上、権利確定主義、現実収入主義とは所得計算が期間計算であるところから、所得を構成する収入がどの年度に帰属するかを決める技術にすぎず、所得税法は原則として、権利確定主義を採用しているが必らずしも常に右主義によらなければならないものでもない。従つて更正決定が権利確定主義によるべき場合に現実収入主義によつて収入の帰属年度を決定したとしても客観的な課税標準に変更を来さず、或は内容が実現不能又は不明確にならない限り、右決定が無効であるとはいえないから、原告のこの点に関する主張は採用できない。

三、被告は原告の昭和三三年度における総収入金は六八一、四五五円(農業収入金四〇三、七〇一円、配当所得金二七五円、給与所得金二七七、四七九円)である旨主張するのでこの点について案ずるに給与所得金額については当事者間に争いがないので、農業収入金及び配当所得について判断する。

(一)  米の収入金について

(イ)  政府売渡高金一三九、七七〇円、政府売渡申込加算金一、四〇〇円については当事者間に争いがない。

(ロ)  原告が昭和三三年中に米を自由売却し三、〇〇〇円の収入を得たことは当事者間に争いがない。原告は始め、売却した米は二六升であることを認めたが、真実に反し錯誤に基くから撤回し否認し売却した米は二九升であると主張するが、被告は弁論の全趣旨に微するに右撤回に異議を述べていることを認め得るところ原告の右真実に反し錯誤に基くことの立証がないから、右撤回は無効である。そうとすると原告の売却した米は二六升であり、自由売却格差金は被告主張のとおり金四五八円と認めるのが相当である。

(ハ)  自家保有粳米金一一〇、九五五円について原告は始め認めたがそれは真実に反し錯誤に基くものであるから撤回し、否認し、自家保有粳米は金一〇七、五〇四円であると主張するが、被告は弁論の全趣旨より右撤回に異議を述べていることを認め得べきところ、原告はその自白が真実に反し錯誤に基いてなされたものであることの立証を尽さない以上その撤回は許されない。よつて自家保有粳米は一一〇、九五五円と認めるのが相当である。

(ニ)  原告が収穫した糯米が二・六俵であること、昭和三三年度米穀政府買入価格は別紙目録記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、右記載によると糯米は玄米一俵につき粳米の価格に金四五〇円を加算しなければならず且つ玄米(三等)一俵の価格は金三、九〇〇円であるから右儒米二・六俵の価格は被告主張の金一一、三一〇円であることは計数上明らかである。

(ホ)  屑米の収護高は一一四升であり、その価格は一升につき金五〇円であることは当事者間に争いがないから、屑米の合計は金五、七〇〇円である。

以上認定のとおり米の収入金は被告主張のとおり金二六九、五九三円となる。

(二)  麦の収入金について

麦の収入金二五、二一五円中金二一、六四五円については当事者間に争いがない。その差額三、五七〇円については被告はなんら立証していないから認めることはできない。よつて原告の麦の収入金は金二一、六四五円となる。

(三)  なたねの収入金について

なたねの収入金三三、一四七円中金三二、七六〇円については当事者間に争いがない。成立に争いのない乙第四号証(昭和三二年滋賀農林水産統計年表)によると昭和三二年六月のなたねの価格(六〇瓩)が金二、九二五円であり昭和三三年三月のその価格が金三、一八〇円に騰貴していることは認めることができ、又昭和三三年三月に原告が苗農業協同組合よりなたね代金六、〇〇〇円の支払を受けたことは成立に争いない乙第一号証によりこれを認めることができるが、被告主張のように右なたねを昭和三三年に販売したとの証拠はないから原告のなたねの収入金は金三二、七六〇円と認めるのが正当である。

(四)  牛追金収入について

原告が被告主張の牛(A)(B)を二度にわたつて、追金四一、〇〇〇円((A)につき金二六、〇〇〇円、(B)につき金一五、〇〇〇円を得て交換したこと、牛(A)、(B)の償却額が(A)は金三、七三五円、(B)は金二、四九〇円であること、右償却費相当額合計金六、二二五円が別途計費に計上されている減価償却費に含まれていることは当事者間に争いがない。牛(A)(B)(C)の取得価格がそれぞれ金九〇、〇〇〇円であることは、原告において明らかに争つていないから、これを自白したものとみなすべきである。そうすると、償却費金三、七三五円を差引いた牛(A)(価格金八六、二六五円)を牛(B)(価格金九〇、〇〇〇円)と交換したことにより金三、七三五円、償却費金二、四九〇円差引いた牛(B)価格金八七、五一〇円)を牛(C)(価格金九〇、〇〇〇円)と交換したことにより金二、四九〇円合計金六、二二五円は収入金として追金四一、〇〇〇円に追加計上するのが相当と考えられる。よつて牛追金収入は金四七、二二五円と認めるのが正当である。

(五)  共済保険収入について

原告が昭和三三年二月一四日金二、五五七円、同年六月二日金七〇〇円、同年一二月一三日金六三八円、合計金三、八九五円の共済保険収入を得たこと、右一二月三百収入の金六三八円が昭和三三年度の収入であることは当事者間に争いがない。右二月一四日金二、五五七円、六月二日金七〇〇円が昭和三三年度の収入として計上することができるかどうか、判断するに、原告の右共済保険金を取得できる地位がいつ発生したかを確定できる証拠は存しないから、右保険金を昭和三三年度の収入として計上することは相当ではない。よつて共済保険収入は金六三八円と認めるのが相当である。

(六)  その他の収入金二四、六二六円

その他の収入金については当事者間に争いがない。

(七)  配当収入について

原告が昭和三三年に配当所得金二七五円を得たことは当事者間に争いがない。原告は配当収入は所得として計上すべきものではないと主張するが、本件配当は成立に争いのない乙第一号証から農業協同組合の配当であることが認められ、所得税法第六条の非課税所得のいずれにも該当しないから、原告の主張は失当である。よつて配当収入金二七五円は所得として計上しなければならない。

右により計算すれば、原告の昭和三三年度における農業収入金は金三九六、四八七円であり、配当所得は金二七五円であるからこれらと前記給与所得金二七七、四七九円を加えた原告の同年度における総収入金は金六七四、二四一円となる。

四、次に被告は、原告の昭和三三年度における必要経費は金一五九、六七八円であると主張するのでこの点について判断する。原告が被告に対し被告主張のとおりの内容及び金額を原告の昭和三三年度における事業上の必要経費として申出たことについては当事者間に争いがない。しかし被告は原告申出にかかる必要経費のうち次に掲げる内容及び金額(合計金三六、一九二円)を否認するのでこの点につき判断する。

(一)  肥料費金三七、二九五円のうち金九、八〇五円(内訳昭和三三年四月一〇日金三、一七五円、同年一二月二五日金三、九〇〇円、同年一二月二七日金二、七三〇円各支出したとする分)を差引いた金二七、四九〇円が昭和三三年の肥料費であることについては当事者間に争いがない。そして右金額が被告の昭和三三年度分肥料費として相当である事は成立に争いのない乙第五号証(昭和三三年滋賀農林水産統計年表)に微し推認するに難くない。原告は右金額の外に肥料費として昭和三三年四月一〇日金三、一七五円を支出したと主張し、甲第六号証の三にその旨記載はあるが、右書証が真正に成立したことを認めるに足る資料なく、又原告は同年一二月二五日支出したと主張する金三、九〇〇円については証人林勝太郎の証言により成立の認められる甲第六号証の一三にその旨の記載があるが、同証人(林勝太郎)の証言によると甲第六号証の一三は、原告に頼まれてあとから原告の述べるとおりに作成したものであり、いつ林勝太郎が原告に尿素化成を売却したのか不明であり、他に右日時に右金三、九〇〇円を支出したことを認めるに足る証拠はない。又原告が同年一二月二七日支出したとする金二、七三〇円については甲第六号証の一六にその記載があるが右書証の成立は認められず、他に右金員の支出を認めるに足る証拠はない。

(二)  飼料金五七、六五四円のうち金二一、五八〇円(内訳昭和三三年一月三一日大麦五俵の代金七、五〇〇円のうち三、〇〇〇円、同年三月一三日七〇〇円、同年五月二二日七二〇円、同年六月一六日七二〇円、同年八月二日七二〇円、同年一二月二〇日六〇〇円、昭和三四年二月二七日一五、一二〇円)を控除した金三六、〇七四円が昭和三三年の飼料費であることは当事者間に争いがない。そして右金額が被告の昭和三三年度分飼料費として相当であることは成立に争いのない乙第五号証(昭和三三年滋賀農林水産統計年表)に登載されている資料と比較してこれを推認するに難くない。なぜならば原告が飼育している家畜として牛一頭がいることは当事者間に争いがないが、他にいかなる家畜を原告が飼育しているかどうかはなんの主張、立証もなく、原告飼育の家畜を牛一頭とすると右乙第五号証から被告主張の金額が正当と推定できる。原告が昭和三三年一月三一日支出したとする麦代金七、五〇〇円については甲第六号証の一五にその旨の記載があるが、同号証の成立を認めるに足る証拠はなく、他に右金七、五〇〇円(争いとなつているのはその内金三、〇〇〇円)を認めるに足る証拠はない。原告が同年三月一三日支出したとする七〇〇円、同年五月二二日支出したとする七二〇円、同年六月一六日支出したとする七二〇円、同年八月二日支出したとする七二〇円、同年一二月二〇日支出したとする六〇〇円については、それぞれ証人木村力松の証言により成立の認められる甲第六号証の二、四、八、一一にその旨の記載があるが、同証人の証言によると、これらの甲号各証はすべて同人が昭和三五年項に作成したもので、右に記載した年月日時金額は原告の依頼で、一応の推測に基づき記載したにとどまるものであることが認められるので、右書証をもつて原告が右のような飼料費を要したと認めることはできない。原告が昭和三四年二月二七日支出したとする金一五、一二〇円については甲第八号証の一、二にその旨の記載があるが右書証の成立を認めるに足る証拠はなく、他に右金一五、一二〇円の飼料費を要したことを認めるに足る証拠はない。

(三)  種苗費金五、六〇〇円の内金三六五二円を控除した金一、九四八円が昭和三三年分であることは当事者間に争いがない。そして成立に争いない乙第五号証によれば原告の耕作面積による昭和三三年の種苗費は金一、九四八円を超えないことが推認され且つ右金額の外に金三、六五二円を要したとする原告の主張事実は認むべき証拠はないから種苗費は金一、九四八円と認めるが相当である。

(四)  作業場費金一、一五五円については被告ははじめ必要経費として認め、のち撤回して除外した。しかし右作業場費を全然要しなかつたことにつきこれを認むべき証拠はなく、かえつて証人白井舜の証言とこれにより成立の認められる乙第六号証に微すると金二〇〇円の支払をしていることが認められる。丈も甲第一〇号証には原告主張の右金額の支払をしたことの記載は看取せられるが、その成立を認むべき資料がないから右原告主張数額は認め得ない。従つて原告主張の作業場費は金二〇〇円という外はない。

(五)  原告は必要経費として金三、五七〇円を追加した。この追加は昭和三八年九月二日第一二回準備手続においてなし、同年一一月二七日口頭弁論においてこれを援用したことは当裁判所に顕著な事実である。しかし申告制を採用する現行税制下において、被告の実額調査に対して原告がなんら述べていないことを、訴訟において必要経費として持出すことは許されないといわねばならない。

かくして原告申出必要経費金一九五、八七〇円のうち、金三五、九二九円は必要経費ではない。従つて必要経費として認め得る金額は金一五九、八七八円である。

五、よつて前記認定にかかる原告の昭和三三年度における総収入金六七四、二四一円より必要経費金一五九、八七八円、及び当事者間に争いのない予約減税金一六、三二〇円及び専従者控除金一六〇、〇〇〇円を差引けば、原告の同年度における総所得金額は金三三八、〇四三円であること算数上明らかである。

しかして前記のとおり被告決定の三三二、七三八円は前示総所得金額の範囲内であるから、何等の違法も存しないものといわねばならない。

よつて原告の本訴請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 畑健次 首藤武兵 広川浩二)

別紙〈省略〉

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